炭素税は公正なエネルギー転換に貢献できるか?
COP27の開催直前に、加盟国、非営利団体(NGO)、業界が一体となって、新しい角度から脱炭素社会を考えることを目的とした、国際海事機関主催のシンポジウムが開催されました。
これは、(多くの課題が再び取り上げられたものの)単に課題に目を通して終わるだけのシンポジウムではなく、「公正かつ公平な」エネルギー転換とはどのようなものかを理解するための試みでした。
メルボルン大学の上級講師であるChristiaan De Beukelaer氏は、シンポジウムで取り上げられたのは、業界が公正でも公平でもない環境を足場にしている状況であり、この問題に早急に対処すべきであると言います。
海運業界には「公正と公平」についての定義がありません。COPでの討議で示されたように、大局的に見ると、途上国、後発開発途上国、小島嶼国が気候変動緩和のための資金を求め、先進国が足並みをそろえずに行動しているというのが明確な事実です。
De Beukelaer氏は、建設的な関与のために必要なのは、問題を明確にすることだと言います。後発開発途上国や小島嶼開発途上国は、対応するための資金が不足しているのみならず、コロナ禍の影響を大きく受けて景気の後退にも直面しています。
脱炭素化により輸送コストがさらに上昇するため、これらの国々が経済の安定に必要とする物資や食料の価格が高騰し、入手が困難になる可能性があります。
同氏は、海運業界だけで気候変動や貧困の責任を負うのは不可能なことであり、海運業界が世界の諸問題を解決するということも期待できないものの、世界中の人々の生活を改善するチャンスはあると付け加えました。
簡単に言えば、公正なエネルギー転換とは、環境への効果があり、手続き的に公平であり、社会的に公正であるということです。こうした考え方から離れてしまうと、格差が深まり、途上国、後発開発途上国、小島嶼国の国民に大きな影響を与える可能性があります。
De Beukelaer氏はさらに、介入する対象国を慎重に絞ることが先進国の役割であり、この役割には、社会的正義の支持や技術共有が可能で、世界的に公平となるような収入分配が伴うと指摘しています。
国連貿易開発会議(UNCTAD)のデータでは、すでに輸送コストの高騰の懸念が示されており、2023年にさらに高騰すると、途上国では1.6%、小島嶼国では最大8%の消費者物価の上昇が予測されるという計算結果が出ています。
UNCTADの技術・物流担当ディレクターであるShamika Sirimanne氏は、途上国の政府予算に厳しい圧力がかかっていると指摘しています。「コロナ禍が発展途上国や後発開発途上国にダメージを与えており、それらの国々では、長期的な持続可能性よりも短期的な国の存亡問題に注力せざるを得ず、債務不履行に近づきつつあるのです。
では、いつになったら海運業界が考えるグローバルな炭素税が導入されるのでしょうか? これは、意外にも早いようです。「エネルギー転換を可能にする重要な要素の1つは、炭素にコストをかけることです。これは不可避なことです」とSirimanne氏は述べます。「炭素にコストをかけなければエネルギー転換は実現できません。ネットゼロは長期的には実現するでしょうが、脱炭素化のためには、すぐに代替案を検討する必要があります。
形態や方式はまだ確定していないものの、炭素税は導入され、そこから得られる収入の一部が、途上国、後発開発途上国、小島嶼国における緩和策の資金となったり輸送コストの削減に役立ったりするはずだと、同氏は付け加えています。
また、同氏は「良かれと思った規制が意図しない結果を招く」という業界共通の不満も取り上げました。同氏は、協力することの重要性は評価してもし過ぎることはないものであり、規制措置の採用前には影響評価を行うべきだと述べています。「私たちは、規制や行政における優れた取り組みを必要としています。そこで得られた見通しが、公正なエネルギー転換のための効果的な実施やコンプライアンスにつながるのです」世界銀行のエコノミスト、Goran Dominioni氏は、IMOの「共通だが差異ある責任」という原則を考えると、長期的には、提案されている炭素税や課税によって生じた収入は、実際には業界の外に分配される可能性が高いと見ています。
気候変動の緩和であれ、インフラの改善であれ、価値のあるプロジェクトはたくさんあります。Dominioni氏は、炭素税による収入を業界外で利用するケースも、例えばメタノールなどのネットカーボンニュートラル燃料の生産に利用できる再生可能電力を生み出すことで、海運業界の脱炭素化に寄与することになると述べています。
しかし、市場の力が常に善意と合致するとは限らないと疑われる場合もあるため、Seamind Blue OceanのVoytek Chelkowski氏は、迅速かつ断固とした規制措置を取るべきだとする、説得力のある理由を述べています。
2008年の景気後退以降、フリート数の伸びは相対的に鈍化しており、供給に対するリスクが蓄積しています(立法府の意向を見抜いて船を発注できると船主が考えているのであれば別ですが)。現在は、炭素税とさらなる効率化の規制が合意に至るまで、船主が発注を控えている状況です。
「2025年、2026年までに景気後退が終わりを迎えても(船舶の建造注文数が増えない限りは)、輸送需要を吸収できるようなフリート数がそろわないでしょう」と同氏は言います。
「私たちは、海運業界のMBMに対する明確な見通しが必要です。見通しがなければ、船主は船舶の更新時期が来るまで投資を行うことはないでしょう。これを行わなければ、私たちが失敗者に仕立て上げられるでしょう。なぜなら、(結果的にもたらされる)海上輸送コストの増加は、CO2税がもたらす混乱よりも大きくなるからです」市場に基づいた炭素への課税措置は、正しいだけでなく、商業的な理由から不可欠だと思われます。