海運業は循環型経済に加わることができるのか?
これからの20年間は、間違いなく今までの20年間とは別物になります。海運業に間接的に関わるすべての者は、このことを認識しておくべきです。脱炭素化アジェンダは、業界全体を作り変えようとしており、世界経済は、より循環型で再生可能な地域密着型モデルを目指す傾向にあります。
業界の中には、これに驚く人がいるかもしれませんが、従うしかありません。海上貿易量は、おおむね増え続けると思われるものの、原材料や化石燃料を長距離輸送する大型船の貨物量は、今後10年以内にピークに達する見込みです。
これは、Danish Ship Finance(DSF)のアナリスト達の結論です。彼らの最新の報告書によれば、グリーン経済への移行はリスクを伴うと同時に、所有者とその出資者にとって新たな利益還元の源泉をもたらす可能性もあります。
プラス面を見ると、短中期では投下資本利益率の向上によって、新規の燃料契約や新造船への投資の増加が見込めます。これは、「グリーン海運回廊」(新しい代替燃料の使用を盛り込んだ港間輸送契約)の登場を反映しています。それと同時に、伝統的に分割所有を特徴とする海運業においては、対応策が少数の当事者に限定されたものになり、拡大展開が困難であるというリスクも考慮すべきだとDSFは考えます。
代替燃料の先行採用の場合と同様に、多くの投資が移行の初期段階で行き詰まる可能性があるとDSFは見ています。報告書では、「船団の更新と燃料インフラの新設には時間がかかり、それが完了するころには、潜在需要が根本的に変わっているかもしれません。」と述べられています。
脱炭素経済において、船舶の排出量は全体の一部にすぎません。企業のスコープ1排出量は、自ら排出した温室効果ガスの量で、スコープ2は、主としてエネルギーの使用に由来する排出量です。そして、企業のバリューチェーン内で発生するその他すべての間接的排出量は、スコープ3に含まれます。
海運業の顧客とサプライヤーが、これら3種類の排出量の削減に取り組むことで、海上貿易のパターンが変化すると考えられ、将来、貿易量の一部は消滅するでしょう。スコープ1、2、3の排出量の報告は業界の先行きを定めます。それが始まれば、船団の構成が大幅に変わる可能性があります。
何らかのグリーン海運回廊で貿易を行うために発注される次世代の船舶は、私たちが慣れ親しんだ日和見主義の資産ベースモデルではなく、固定された貨物量を扱い、固定されたコストと収益で運用される流動的なインフラへと本質的に変化するかもしれません。
こうした船舶は、伝統的な船舶所有に対してまったく異なる価値をもたらすでしょう。というのも、グリーン海運回廊での貿易に用いられる船舶は、既存の貨物市場の船団とは競合せず、より低い排出量によって環境水準を打ち立てることで、旧来の船団の収益力に影響を及ぼすからです。
グリーン海運回廊のコンセプトを先行的な取り組みからさらに広げられるかどうかは、同じ場所で脱炭素の意思を共有するさまざまな部門や業界から必要最小限の人数を動員できるかにかかっています。しかしDSFは、困難を認識しています。
「誰もが脱炭素に苦労しています。グリーンな長距離輸送を要求するのは簡単ですが、実際に届けるのは大変です。それでも、貨物優先の原則を活かしながら、グリーン海運回廊を形成するために貨物流動と燃料補給インフラの可能な組み合わせを分析することで、リスクを回避し、先行事例から最初に学んだことを拡大適用できそうです。」とDSFは提案しています。
DSFは、グリーン海運回廊の導入が、海運業における価値創造の新たな原動力になると考えています。勝者と敗者を作るのみならず先行者をも不当に扱う一時的な活況に頼るのではなく、荷主や燃料生産者と長期契約を結ぶことで、船団効率の長期的な最適化が可能になります。
この転換は、キャッシュフロー安定化、規模の経済、標準化、および資本コスト低減を実現できる者には恩恵をもたらすでしょう。しかし、新しいビジネスモデルが競争環境の再定義のきっかけになるかどうかは、まだわかりません。
海運業は、しばしば短期的な混乱から恩恵を受けます。なぜなら、より多くの貨物をより長い距離で運ぶ必要が生まれるからです。とはいえ、混乱によって根本的な需要変化が中長期的に展開すれば、業界の短期的利益は簡単に吹き飛ぶ可能性があります。
ウクライナでの戦争は悲劇的な一例です。非常に大きな需要がある商品や、戦争のリスクまたは制裁によってさらに遠くの代替仕入先から運ばなくてはならない商品、とりわけ化石燃料由来のエネルギー貨物と食料品の輸送が滞っています。この例が示すように、短期的な情勢変化は、さまざまなセグメントにわたって運賃と中古相場を押し上げる大きな要因となりますが、業界が目指しているのは、価値を生み出すやり方を長期的に根本から変えることです。
海運業は究極の「派生需要」産業であるため、海上貿易量と貨物流動は、世界経済の中で相互に結び付いたバリュー・サプライチェーンをありのままに反映しています。DSFによれば、状況が変わるには予想以上に時間がかかるかもしれませんが、変わらなければならない以上、変わっていくでしょう。
「私たちが世界経済の基礎を変えることに取り掛かるときは、部門と業界をまたぐバリュー・サプライチェーンの見直しと改革から始めます。高度に自動化された現地生産・製造を導入するとともに、化石燃料を再生可能エネルギーに置き換え、原材料を循環型材料に置き換えるという方向で考えます。」とDSFはまとめています。
革新的なビジネスモデルでは、資源の使用量を減らしながら、より多くの顧客がより多くの製品とサービスを容易に入手・利用できるようにする方法を見つける必要があるでしょう。