あらゆる困難を克服して
気候会議COP 26がわずか数週間後にせまりました。海運業では、船舶からの温室効果ガス排出の削減だけでなく、「正味ゼロ」到達への取り組みにも焦点を絞りつつあります。たしかに、発言の長さと議論の量が進歩の指標になるのだとしたら、海運業は、排出量の本当の削減に向けた大きな進歩に踏み出しつつあるといえるかもしれません。
たとえば、世界の海運業の80%を占める国際海運会議所(ICS)は、2050年までに船舶からの排出ガスを正味ゼロにする取り組みをサポートすると表明し、海洋環境保護委員会に先立って国際海事機関に計画を提出しました。
提出された計画は、2050年までに排出ガスを2008年レベル比で50%以上削減するというIMOの現在の目標と比較しても、2倍も意欲的なもので、他の多くの団体や加盟国が同様の正味ゼロの呼びかけに応じました。
この計画では、ゼロカーボン技術を開発するための研究開発基金が義務づけられ、もっと高価なゼロカーボン燃料への移行を促進するための船舶向けのカーボン課税の策定も含まれています。
たしかに意欲的な内容で、大がかりな作業となります。実際には、英国女王エリザベス2世が最近指摘したように、世界中のどのような話に関しても、進歩は後退しやすいものです。
その証拠として、国際エネルギー機関(IEA)の「世界エネルギー見通し」を挙げることができます。ここでは、パリ協定の締結以来の全産業を通じた進歩が簡潔に分析されています。
IEAによると、現在、エネルギーの変化のスピードを示すあらゆるデータポイントに対し、現状維持の頑固さを示すデータポイントが拮抗しています。昨年の新型コロナウイルスによって景気後退が引き起こされたのち、急速に、しかし不均一に景気回復がなされた結果、現在のエネルギーシステムの一部に大きな負担がかかり、天然ガス、石炭、電気市場で急激な価格上昇に拍車がかかっています。
2021年は、再生可能エネルギーと電気モビリティによる進化にとって、石炭と石油の使用に関して大きなリバウンドが見られると、IEAは指摘しています。これが主な原因となって、CO2排出量は史上2番目の増加を示しています。
景気回復パッケージにおける持続可能エネルギーへの公共投資は、エネルギーシステムを新しい方向に向かわせるのに必要な投資の約3分の1を動員したに過ぎず、さし迫った公衆の健康危機に直面し続ける経済を発展させるには、大きく不足しています。
進んでいる方向は、2050年までに正味ゼロエミッション(NZE)を達成するという、2021年5月に公表されたIEAの目標からは大きく隔たっています。IEAの目標では、世界の気温上昇を1.5 °Cで安定させるという、厳しいながらも実現可能なロードマップが計画され、その他のエネルギー関連の持続可能な発展目標の達成も計画されていました。
IEAは言います。「世界的に非常に有望だったクリーンエネルギーの機運は、私たちのエネルギーシステムにおける化石燃料への根強い依存という抵抗を受けています。COP26において、各国政府は、未来のクリーンで強靱な技術を急速に高めることを約束するという、間違えようのない明快なシグナルを発することで、これを解決する必要があります。クリーンエネルギーへの移行を加速させることによる社会・経済的なメリットは莫大なものがあり、逆に何もしなければ非常に大きな代償を払うことになります。」
現在公表されている気候に関する約束がすべて果たされたとしても、2050年までに世界で1日あたり7,500万バレルの石油が消費されることになります。現在の約1億バレルという数字(IEAのデータによる)に比べれば減るわけです。しかし、IEAのNZEが達成されれば、2,500万バレルまで低下させることができます。
特に海運・航空に関しては、石油製品に課す消費税や混合命令などの政策を実施すれば、代替燃料の消費を支えることになるだろうと、IEAは言います。
「各国政府は、海運・航空などのヘビーデューティーな長距離輸送の鍵を握る技術を商業化するための投資を促進し、こうした投資へのインセンティブを拡充する必要があります。」とIEAは述べています。
さらに、海運・航空における排出ガスの削減は、鍵を握る技術の革新によって左右されると、IEAは述べます。海運・航空において低炭素燃料が占める割合は、たとえばNZEであれば2030年までに15%を超えるはずですが、各国政府が現在公約している内容に基づくシナリオだと、約6%にしか達しません。
該当する技術としては、高密度バッテリー、燃料電池、最先端のバイオ燃料、合成燃料などがあります。IEAは、代替燃料の採用を加速させる最良の計画は、世界最大級の港湾と空港に焦点を絞ることだと示唆しています。
サプライチェーンの集中により、世界中の空港の5%未満で国際便の90%に対応しており、船舶では、世界上位20の大きな港湾で世界中の貨物量の半分以上が扱われています。「低炭素技術がもっとコスト競争力を増すまでは、国際的な航空・海運セクターでは、主要な需要クラスターに焦点を絞るようにすれば、大きなチャンスがあります。」とIEAは言います。
実際、IEAがレポートで示唆しているところによると、輸送セクターは正味ゼロを率先するどころか、化石燃料への依存度が全セクターの中で最も高く、最終用途セクターからのCO2排出量の37%を占めています。近年は、需要が増大しているにもかかわらず、代替燃料の採用が限定的であるために、輸送セクターは全セクターの中でCO2排出量の伸びが最も急速となっています。
グラスゴーで開催されるCOPの会議には、世界中の相当数の指導者が集まります。ですから、討論のテーブルは、困難を克服すべき場になるという印象をますます強く抱かされます。