データ、センサー、そしてソフトスキル
これまで、本ウェブサイトのこのページでたびたびお伝えしてきたとおり、今後10年間は、効率的で収益性の高い海運会社とそうでない会社を分ける重要な要因として、データに注目が集まるようになるでしょう。先週開催された見本市「Nor-Shipping」において、海事デジタルコンサルタント会社ThetiusのNick Chubb氏がインマルサットセミナーの話の中で触れたように、企業が動こうとする動機は、規制に従うことで処罰を受けないようにしたいか、コストを節約してビジネスを継続したいかという2つしかありません。
何もしないことが魅力的に思えるかもしれませんが、Chubb氏は厳しい選択肢が海運業界を待ち受けていると説明しながらも、企業が運営方法を変えるときに実施できることの事例と、そうした選択肢を照らし合わせながら話をしました。
「変化するには常に時間とコストを要する」という歴史からの学びは、海運企業にとっては聞こえの良い話ではありません。LNGが世界中の船舶の1%で燃料として使用されるようになるまでに10年を要しています。長期的な脱炭素化ツールは開発には10年を要し、導入にはさらに10年を要します。
問題なのは、排出量がいまだに増加していることです。Thetiusは、海運企業の脱炭素化には1.1~1.9兆ドルかかり、そのうち80~90%は代替燃料のコストで、残りが既存フリートの最適化コストになると見込んでいます。
Chubb氏はこれを、フリートから実際の運航データを収集して数値を把握し、燃料の節約や排出量の削減を開始する1つのチャンスであると考えています。船舶のデータを取得し、船舶の文化的変化も推し進めることができるようになるということです。
より多くの高効率船舶が港間を行き来して貿易を行う「グリーン海運回廊構想」などの推進要因も、2025年までに提案されている5つの回廊から急激に増加するでしょう。グリーンファイナンスを利用できることも、船舶を建造するためのプロセスの一部になるでしょう。
海運業界の切り札となるのは、その活力ある新興分野です。その分野は、船舶の管理企業や運航会社にとって年間1,100万ドルの価値があるとされています。1990年以降、その数値は5倍に増加し、特許請求件数も6倍に増加しているとChubb氏は付け加えました。
同氏はその例として、航海の最適化を行っているデンマークの新興企業ZeroNorthを取り上げました。同社は、Trafigura社全体の二酸化炭素排出量を削減しており、船種によっては7~14%の削減が可能であるとしています。気象サービス会社のStormGeoは、実際の気象状況に基づくルートを提案することで、Aurora Tankers社に対し1航海あたり33時間の時間短縮と、14,000ドルの費用節約をもたらしています。
「燃料費の5~25%の節約が可能であり、非常に簡単に達成できます。効率性を高める多くの余地があるのです。つまり、大幅なコスト削減が期待できます」
始めることは1つの挑戦です。また、InmarsatのMark Callaway氏が指摘するように、航海に関わる複数の利害関係者にとって、さまざまな要因に基づいて判断を行うことは厄介なことです。陸上であればソフトウェアや分析ツールを使用することですばやく解決できるかもしれませんが、海運の場合は状況把握にも時間がかかります。
目的はシンプルです。それは、利害関係者の判断を改善し、希望する効果を達成することです。Callaway氏は、フリートや船舶、システム、設備であれ、それらが規制や環境に適合していない場合のコストを理解しておく必要があると付け加えています。
センサーを搭載した船舶が比較的少なく、データサイロや共有に対する抵抗感も相まってプロセスが表に出ないため、データ収集は依然課題となっています。
新たな考え方が必要ですが、新興企業YxneyのSindre Bornstein氏が言うように、何でも自分でやろうとするよりは、分析を専門家に任せることが賢明なようです。
「船主は目的を達成するためのデータのスマートな使い方を考えていますので、私たちは、将来に対応した判断を心がけ、燃料の節約や新燃料に結びつくようにしています。乗組員のために、行動を把握して複雑さを解消する必要があります。こうすることで、作業に集中できる環境を乗組員に提供できるのです」Bornstein氏はこう語ります。
こうしたことは、多くのオフショア支援船がわずかな仕事を奪い合うようなオフショア業界において特に優位に働きます。同氏は、運航会社がデータを1つの優位性として利用していると言います。「用船主リストに載るため、効率的に船舶のことを知らせることができるのです。『まかせてください』ではなく、『やり方をお見せします』と言えるのです」
Nautilus LabsのJulia Mason氏は、「LNGキャリアの船主のために達成できること」に対する顧客の疑いを乗り越えることができたと説明します。同社は、プロペラシャフトの性能や、「ボイルオフ」ガスが貨物から消失している量に関するデータを収集し、これを「ジャストインタイム」到着のシナリオと組み合わせました。Nautilus Labsは、船舶の速度を最適化することでこれを予測し、運航会社は、9日間の航海で102トンのLNGを節約し、280トンのCO2を削減できました。
「お客様に当社の案を提示したところ、『不可能だ』と言われたのですが、2日間の協議の後に『OK』と言っていただきました。そして、お客様はより多くの貨物を載せる一方で、ボイルオフガスが最も少ない状態で港に到着するようになったのです」こう語るMason氏は、次のように付け加えています。
「技術だけじゃないのです」「技術だけではなく、説明、話し合い、そして説得するためのソフトスキルを身につけた人材が必要なのです。海運業界における変化のマネジメントは、私たちが直面する大きな問題なのです」
この問題は、船主と用船者の意欲の差につながることがあり、これが、多くの用船者にさらなる関与を促しています。コストや二酸化炭素排出量を抑え、より良いESG評価を得たいという荷主の希望は、長期傭船契約の船舶にセンサーを搭載させるための船主らへの圧力となり、結果が船主と共有されることになるとMason氏は言います。
データが時代を変えるものになることは明白であり、その影響は、混在するフリートを抱え古い船舶を運航している会社にも及びます。コストが高すぎるということであれば、運航会社は、比較的安価な燃料流量計やその他のセンサーの設置から始めることも可能であるとChubb氏は言います。
「データ収集のための遠隔測定機器を搭載している船舶は1/3程度にしかすぎず、船主は、必ずしも陸上でこれを使用する必要はありません。いまだにセンサーや測定機器を搭載せずに造船所から出てくる船を見て、私は驚いています」造船所は、船主に対してペナルティーを課すことで、船主が設定仕様を容易に変更できないようにすることも可能です。データの所有権についてはOEMとの争いを引き起こす可能性もあるでしょう。
「高価で始めにくいという不安があると思いますが、返済してしまえば有利になりますし、必ずしも難しいものではありません」