希望 ― すべての人にとっての、かけがえのない贈り物
組織に属する人々にとっては、クリスマスが早く訪れるものです。サウスウェールズポートにあるザ・ミッション・トゥ・シーフェラーズ(MtS)の牧師、Mark Lawson-Jones氏は、クリスマスシーズンに備え、毎年10月中旬から良質なチョコレートやビスケットを探し始めます。
このお菓子は、MtSが船員たちに届けるクリスマスプレゼントの一部として包装されます。Lawson-Jones氏は、こうした慈善事業のためにいくらか割引してもらえないかと、自らの時間を割いてスーパーマーケットのマネージャーと交渉するのですが、たいていうまくいきません。
10月中旬になると、船員の中にはクリスマスの話をする人も出てきますが、今年は少し様子が違っていました。多くの船員はクリスマスの前後で契約書に署名するのですが、一部の船員は、クリスマスに帰国できるように契約のタイミングを1~2カ月延ばしたとMtSに話しているのです。
「6年ぶりに家族と一緒にクリスマスを過ごすことができるように、10カ月間乗船する予定です。」こう話すある船員は、「小さな子どもがいるのです。クリスマスを逃してしまうと、思い出がなくなってしまいます」と述べています。
Lawson-Jones氏は12月初旬までには船員たちにプレゼントを配り始めます。すべての船員に十分行き渡るようクリスマスまで続くこの活動には、スピードと柔軟さが求められます。なぜなら、寄港のタイミングや天候は大きく変わることがあるからです。
同氏は、MtSで働き始めた最初の年のある夏の日に、自分が住む地域の港を車で回って船々を訪ねました。そして、偶然にもあまり使われていない静かなドックに行き着き、スペアパーツの到着を待つ船に乗り込むことになりました。
時間を持て余していた乗組員は、すぐに出航する必要がない静かな数日間に観光することがいかに良いものかを、嬉しそうに説明してくれました。やがて現れた船長は陽気でユーモアのある人で、コーヒーのおかわりをしながら海での生活について語り始めました。
船長はLawson-Jones氏に対し、大きな船で世界中の港を訪れ、貨物を降ろして再び出航するのを待つ数週間の間に、どのように過ごしていたかを語りました。船長は、インターネットにより船員が家族と会話できる
ようになったのは良いことだが、その分、クルーとして一緒に過ごす社交的な時間が減ってしまうと指摘しています。
船長はやがて立ち上がり、Lawson-Jones氏も同じように立ち上がろうとしたとき、「MtSの牧師がいなかったら私は死んでいただろう、あなたは良い仕事をしている」と言いました。そして、船長はまた座り込み、しばらくは何も言いませんでした。そして、話がゆっくりと語られます。その内容は、さっきまで聞いていた話とはまったく異なるものでした。
結婚当時、彼は海の仕事に就いて10年ほどであり、長期間離れていてもうまくいっていたようです。やがて、妻との間に第一子が誕生し、すべてがうまくいっているように思えました。一方、彼は大海原を進む外航船から離れ、地元で仕事をしようと常々考えていました。次の契約まで少し自宅にいる時間があったため、契約について問い合わせてみたものの、その時点でわかり得る情報はありませんでした。最後の長期契約にサインし、家族に別れを告げ、新居のための貯蓄と自分たちの未来への投資のために海に出ました。
そして1ヵ月が経ち、遠くの港から出航しようとしたときのこと。彼の妻から連絡が入りました。その内容は、妻が子供を連れて出て行くというものでした。妻は、1年のうち5分の1の時間しか一緒にいられない相手と結婚することがこんなに大変なことだとは思わなかったと、申し訳なさそうに説明しました。申し訳ないと言いながら、彼に理解してもらおうとしたのです。
2週間後のクリスマスの日、船は深海を航行していました。彼は食堂で他のクルーとともに食事をし、自室に戻りました。衝撃的な知らせを受けて以来、彼はまともに眠れず、集中力もなく、自分の未来はないと感じていたようです。そして彼は自殺を決意し、その方法を計画しました。
暗闇の中で腰を下したとき、彼は数週間前にMtSの牧師が届けてくれたクリスマスプレゼントを思い出しました。彼は、クリスマスまでこのプレゼントを開けないでおこうと決めていたのです。そのプレゼントを探して開けてみると、中にはチョコレート、くし、石鹸、そしてペンや鉛筆、ノートなどが入っていました。また、一目でMtSのシンボルとわかるフライングエンジェルの絵が描かれた小さなカードもありました。そのカードには、「メリークリスマス」の言葉、そして海での活躍に感謝するMtSのボランティアからのメッセージが書かれていました。
彼はそれを見て何時間も涙を流しました。そして、涙が収まったと思ったら、また感情の波が押し寄せてきて、またしても深く苦しい孤独感に襲われたそうです。やがて眠りについた彼は、クリスマスの夜遅く、見張りのために目を覚ましました。そして、「とにかく最後まで安全第一で行こう」と決心し、考えを改めたのです。彼はその後、長い年月を経て、晴れた日に人里離れた波止場でいい人生だったという話をたくさんした後で、ようやくこの話をすることができたのです。
船長は、プレゼントそのものが自分の問題を解決したのではなく、誰かがこんな自分のために時間を割いて特別なことをしてくれたという事実に心動かされたと説明します。だから、特に家族と遠く離れていると、クリスマスの日は特別になるのです。
Lawson-Jones氏は、自分のような牧師が、小さなことでもMtSが大きな変化をもたらすことを願い、祈っていると言います。「私たちは、船々への訪問を継続して船員の真実の言葉に耳を傾け、船員は感謝されているのだということを示しているのです。なぜなら、船員がいなければ、世界は大きく変わってしまうからです。」