まずは助けを求めること
このブログの定期的な読者の皆さんは、海運業の直面している課題が周期的な問題ではなく、世代的な問題であることを、前々からご承知のことと思います。
たしかに、世界の政治や商業のダイナミクスというのは「テクニカル」なことかもしれませんが、本当に阻害要因となります。新型コロナウイルスはサプライチェーンやクルーの治療に長びく影響を及ぼしていますが、いうまでもなく脱炭素化やデジタル化にも高いコストがかかります。
クルー交代の危機を解決するために、まがりなりにも努力が続けられていますが、サプライチェーンは将来的な論文の題材を豊富に与えてくれます。大きな題材となるのは、脱炭素化です。おそらく、これは「正味ゼロカーボン」として考える必要があるのでしょう。つまり、カーボンニュートラルに向けて可能な限り排出量を減らすことです。
これは現在、非常に注目されているテーマで、ハイブリッド形式で頻繁に会議が開かれており、鍵を握るテーマがいくつも浮上しています。
ロンドン国際海運ウィークで議論された中で貴重なのは、この問題に尽きるといっても過言ではありません。Sea Asiaで開催された公開討論会では、脱炭素化の突きつける課題、実際に講じるべき措置、リスクの所在などのテーマについて話し合われました。
当然のことですが、誰かに助けを求めるときの第一歩となるのは、自分が問題を抱えていることを認めることです。海運業が取り組まなければならない主要な課題は、将来必要となる燃料を確保することです。このプロセスはすでにスタートしていますが、問題を理解し、またその答えを理解できるようになるまでには、まだ巨大な仕事が残されています。
この公開討論会において、アングロ・アメリカン社の海運グローバルヘッドのピーター・ライ氏は、優先的に理解したいのは「いつエンジン技術が利用できる状態になるのか、またいつ確実な燃料供給が当てにできるようになるのかということです。しかし、誰がどれくらい費用を負担するのかという点はもちろん、今後どうなるのかについて、どのように人々が考えているのかは、業界内でも意見が分かれています。」と述べました。
MSCの海運政策EVPのバッド・ダール氏は、今までのところ需要の徴候はそれほど強くはなかったと言い、こう述べました。「何よりもまず、私たちは現在、燃料が必要です。どのようにしたら入手できるのか。それは、規制の観点だけではなく、政策の観点から、現実の問題を実現することから始まります。私たちはそれぞれ役割を果たす必要があります。」
このためには、独創的になり、偏見にとらわれない必要があります。燃料供給の経路が1つだけでは、問題は解決できないでしょう、とダール氏はつけ加えました。「私たちは気候リスクを分散する必要があり、1つのものだけに集中しては、リスク管理がうまくいきません。適切な形で燃料が得られなくなってしまいます。」
ここから、協力という厄介な問題、つまりこれまで競争ばかりしていた産業が、商業的な垣根を越えて取り組めるのかという問題に改めて導かれます。ピーター・ライ氏は、方向性は決まっており、船主は各自の役割を果たすことが期待されるだろうと指摘し、こう述べました。「私たちは顧客であり、私たちの事業の脱炭素化は、株主(顧客または従業員)によって要望されています。これは下流に流れていくわけで、船主も参加することが期待されます。」
船舶とサプライチェーンでは新しい技術が必要になることから、協力するのが賢明だとライ氏は述べました。「協力する以外に、どんな方法があるというのでしょう。すべてを一人の個人でやることはできません。一緒に負担しようとするパートナーが必要です。」
MSC自体、いかなる企業も、また一つのセクター全体でも、単独では脱炭素化を達成することはできないと認識した上で、特筆すべき戦略的パートナーシップを結んだり、複数の団体をまとめることで協力体制に移っており、選択肢を検討しています。ダール氏はこうつけ加えました。「私たちがエネルギー市場を動かすことはできませんので、もっと幅広い枠組みで取り組む必要があり、まだ存在しない〔燃料供給の〕中間層を通じていくつかのアイデアを実現して現実化し、供給できるようにする必要があります。」
船級協会DNVの議長クヌート・オルベク・ニルソン氏が指摘したように、プロセスの根拠となる規制を、さらに発展させる必要があります。規制というのは、「タンクから航跡まで」にとどまらず、とくに「油田から航跡まで」の排出ガスのライフサイクル全体の評価と、どの燃料が実際に許容されるのかということに関する規制です。
この点に関しては、意見が分かれます。燃料としてのアンモニアの使用に関して幅広く生産準備を進めている伊藤忠商事のNH3プロジェクトリーダー、赤松健雄氏によると、ガイドラインとインセンティブを定める責任があるのはIMOであり、もっと先へ、もっと速く進められるようにIMOに働きかける必要があります。氏はこう述べました。「当社はまだ待っている状態です。ですから、パートナーとともに試験や生産準備を試行していく必要があり、他社も同じことをするべきだと思っています。」
燃料の選択の責任を、もっと公平に船主に負わせるようにするという移行が行われつつあります。「当社はパートナーに対し、待つように、また1つの選択肢だけを見ないようにと言っています。いつ、どのように船主がゼロエミッションに移行するのかということに関しては、現時点では明確な答えがありません。待っている間に、もっと研究しなければなりません。」
MSCにとって、もう環境保護のための規制を待っているという選択肢はありません。ダール氏はこう述べました。「詳細は規制によって決められることになりますが、指をくわえて待っているわけにはいきません。2050年までに正味ゼロに到達しようとするなら、どんどん先へ進み、私たちなりの目標を決める必要があります。20年後までというなら、とっくにスタートしていなければなりません。」
トタルエナジーズ社の船舶燃料担当副社長ジェローム・ルプランス = ランゲ氏は、警告するような調子で結論づけました。この警告は、現在のガス価格環境とそれがアンモニアの生産に及ぼす影響により、ますます的を射たものとなっています。
未来の燃料については、メタノールでも、アンモニアでも、メタンでも、水素でも、海運業は他の産業と激しく競争することになるでしょう。氏はこう述べました。「もっと多くを生み出せるようにスタートしなければならないのは当然のことです。燃料をどのように海運業に持ってくるかについては、まだ不明確な部分があります。IMOと船主は、必要に応じて見通しを立てるようにする役割を担っています。」
さらに、氏はこうつけ加えました。「製造業者に安心感を与えるためには、開発段階が必要となりますが、それは複雑なものとなるでしょう。どの船主にも、特注のソリューションが必要となります。」
「〔海運業が〕正味ゼロを達成するためには、研究開発を加速させる必要があり、斬新なアイデアが求められます。LNGやバイオ燃料などの候補が存在しており、バイオマスや水素などの潜在的な候補はまだ開発段階です。燃料供給業者間での協力には明確な役割が求められます。明快な規制の枠組みができれば、船主やエネルギー提供業者は見通しが得られるでしょう。〔必要な再生可能エネルギーを生み出すためには〕大量のグリーン電力が必要となりますから、海運業は、いわば要求信号を送る必要があるのです。」