未来志向であることの問題点
未来志向であることの問題点
どのような投資にもリスクは付きものです。次世代技術は、現行モデルを購入した瞬間に価格が下がり、機能性は向上します。あなたが購入を検討している自動車の性能は良いかもしれませんが、来年地元の市街地を走ろうとする頃には割高なものになっているかもしれません。
こうした考え方で残りの21世紀の海運業に必要な代替燃料にまで広げてみると、考えられる要因は途方もなく増え、リスクは増えるばかりです。
これと同じことが、燃料としてのLNGの開発にもある程度表れています。LNGは化石燃料でありながら炭素や従来の大気汚染物質を排出しないものの、サプライチェーンでのメタン漏れの問題があり、CO2よりもはるかに深刻な気候変動を引き起こす可能性があるのです。
当初は、北欧の一部の国が補助金を出してこの燃料を採用し、その使用に適した船舶に対しては新造船価格の3分の1を補助金に上乗せしました。現在は、従来の再生不可能な形態での使用を禁じるべきだと警告する環境保護団体やNGOによってのけ者の烙印を押されそうになっています。
EUの低炭素エネルギー戦略においてその天然ガスがいまだに大きな割合を占めていることは、大きな混乱を招いています。ウクライナの戦争が供給網に与える影響によりこの燃料への注目が集まりましたが、(最近は価格が緩和されたとは言え)多くの人が途方に暮れています
燃料としてのLNGは、補助金を除けば、すべてのリスクを背負い一部の報酬しか得られない典型的な「先発者」のようなものです。船が動いているときにグリーンプロファイルが実現されるのは、現在、排出量が「well-to-wake(ライフサイクル)」ではなく「tank-to-wake(燃料の消費段階)」でカウントされているからですが、これは変更されるかもしれません。
このメッセージは、必ずしもある燃料が正しくて別の燃料が間違っているということを言っているのではなく、業界が帆から蒸気に移行して以来最大の賭けに出る前に、脱炭素化に必要な燃料についてもっと理解する必要があるということです。
この問題は海事技術フォーラム(MTF:Maritime Technologies Forum)が研究を行い、バイオメタノールやグリーンアンモニアなどの代替燃料の実現可能性の認識と、どれだけその準備が整っているかの間に決定的な知識のギャップがあると結論づけています。
ABSのGeorgios Plevrakis氏とノルウェー海事庁のKnut Arild Hareide氏は業界紙Tradewindsに寄稿し、船舶に代替燃料を広く普及させるには、「業界が一連の予備検討を迅速に進め、安全な導入に必要なデータを収集するため、新しいトレーニングプロトコルを開発する必要がある」と述べています。
旗国の政府機関と船級協会で構成されるMTFは、海事産業の脱炭素化を支えると期待されている代替燃料の実現可能性を評価するために、共同研究を実施しました。
この研究では、舶用ガスオイル(MGO)、化石LNG、バイオメタノール、グリーンアンモニアの4つの燃料が評価対象として選定されました。研究の枠組みには、持続可能性と環境、安全性、セキュリティ、経済的実現可能性、規制、人、技術状況、エンジニアリングという8つの評価カテゴリーが含まれています。
この研究では、グリーンアンモニアとバイオメタノールの利用に必要な3つの主要基準(持続可能性と環境、経済的実現可能性、人)に関するデータが不十分であることがわかりました。報告書では、代替燃料は持続可能性の点では高いスコアを獲得しているものの、混乱に対する耐性は、サプライチェーンやバリューチェーンが確立されている化石燃料と比べて明らかにはるかにスコアが低いと結論づけられています。
今回MTFが作成したヒートマップは、より注意を払うべき問題点を業界関係者に対して簡潔に示しており、今後の業界の取り組みの指針になるものです。
例えば、グリーンアンモニアやバイオメタノールの生産量や入手可能性に関するデータは不十分であり、いずれの場合も経済的実現可能性の基準が満たされていないことが研究によってわかりました。
規制は代替燃料導入の動機付けにはなるものの、直面する問題が数多くあると著者らは付け加え、次のように述べています。「代替燃料が経済的に成立するためには、さまざまな課題を乗り越えなければなりません。 このことは特に、実用的な経験と規模を体得するために、より多くの研究とパイロットプロジェクトを優先させる必要があることを示唆しています」
代替燃料の導入は、化石燃料を使用した従来の業務と比較すると船舶業務のパラダイムシフトにつながる。こうした理由から、知識のギャップを埋めるために、技術や能力の開発、新しいトレーニングモジュールや対応する認証システムの確立が必要である ― 著者らは報告書の最後にこうまとめています。
LNGとメタノールについてはトレーニングモジュールや認証システムがありますが、さらなる開発が必要です。アンモニアについては経験やデータが不十分なため、トレーニングが実施されていないのが現状です。そのため、アンモニアの取り扱いに関する特定のリスクと要件を反映した、新しいモジュールと認証システムが必要になります。
MTFが行った研究は、代替燃料を安全に使用するためにはまだ多くの課題が残されているという、共通した見解を示しています。この研究は、特定の種類の燃料を推奨しているのではありません。脱炭素化を達成するためには、目の前にあるあらゆる選択肢を活用する必要があるというのが、ほとんどの利害関係者の意見です。
むしろこの研究は、経済的かつ技術的に実現可能な将来の燃料の選択肢を開発するために、MTFの枠組みを代替燃料に当てはめることで準備態勢に関する重要な見通しを示し、業界が焦点を絞って研究努力を払う必要があるギャップを特定しているのです。