あらゆる場所で痛みを伴う変革が必要です。
世界的なエネルギー・環境コンサルティング会社のリカルド社は、最新の調査において、脱炭素化への移行を模索している海運業が直面している課題の規模を大まかに描き出しました。
これは一連の学問的調査のうちの最新のものですが、海運業はこれからまだ前方に横たわる大きな課題に挑む必要があることが示唆されています。その理由は、いくつかありますが、とりわけ二年間に及ぶ経済成長の停滞と、景気回復の圧力にさらされているサプライチェーンがあります。
しかし、海運業は、抜本的な変革を行わなければ脱炭素化できないでしょう。さらに重要なことかもしれませんが、新しい燃料インフラを開発する資金源となる、大規模投資を行うのに必要な資本を呼び込む必要があるでしょう。この投資の必要性の多くは、化学・燃料サプライチェーンに関するものですから、海運業界だけで完結しうる問題ではありません。
この報告書では、IMOの目標を踏まえ、温室効果ガス排出量を2050年までに50%以上削減することを基準ラインとしています。基本的な結論は明確です。それは、海運業の変革は、速やかであればあるほどよく、また深ければ深いほどよい、というものです。暫定的な解決策では、短期的には炭素が削減されますが、長期的にはコストが膨れる可能性があります。
この報告書では、脱炭素化に向けた3つの道筋が略述されています。大まかにいうと、極度に大変な道、非常に大変な道、大変ではあるが比較的達成が容易な道の3つです。
第1のシナリオは、リカルド社の想定によると、アンモニアと水素を用いたゼロ炭素燃料を早期に追求し、2025年以降に新規建造される船舶の一定数において、最終的には2035年にすべての新造船において、この燃料を指定するというものです。これには、グレーの代替燃料(化石燃料から製造)からブルー(炭素を再使用するもの)へ、そしてグリーン(完全に再生可能)への同時移行が必要となるでしょう。
また、中程度にエネルギー効率化技術を採用して運航対策を講じ、全体的に10%の速度低下を想定する必要があるでしょう。
これが海運業にどれくらいの課題を突きつけるのかを適切に表現するのは困難であり、また燃料産業、造船所、船舶の可用性、そしておそらくは安全性に対する影響を見積もることも困難です。そうしたわけで、次の2つの選択肢が有力視されています。
第2のシナリオは、暫定的なドロップイン燃料を適度に採用するというものです。このシナリオでは、2025年以降、燃料油、船舶用ディーゼル、LNGを次第にドロップインのバイオ燃料とバイオメタンに置き換えていくことになります。このシナリオでも、中程度にエネルギー効率化技術を採用して運航対策を講じる必要があり、同時に世界中の船舶で20%の速度低下が想定されます。
第3のシナリオは、多くのオーナーが現在実施中であるか、もしくは早急に実施しようとしているものです。技術の採用の増加と、それに続く代替燃料への移行とを組み合わせることで、多くの人々がエネルギー効率化と運航対策を駆使して炭素を削減できることを期待しています。
ただし、このシナリオでは、30%の速度低下が想定されるので、船舶の可用性にさらに大きな影響が出ることになるでしょう。2030年以後は、炭素を含む燃料を用いた新造船には、カーボンキャプチャー(現在試験中の技術)を組み込む必要があるかもしれません。
新造船には、2035年までに徐々にアンモニアおよびメタノール燃料が燃料として導入され、残りの船舶ではLNGが使用されるでしょう。代替燃料の道筋としては、やはりグレーからブルーへ、そしてグリーンへと移行するでしょう。
ウェル・トゥ・ウェイク(油田から実際に船を動かすまで)で温室効果ガス排出量を計算すると、この3つの道は、いずれもIMOの脱炭素化目標を満たしうるとリカルド社は評価しています。しかし、どれほど遠い道のりを経なければならないのかが、改めて浮き彫りになります。
第1または第3の「燃料切り替え」シナリオでは、新しい船舶エンジンへの投資が必要になり、第2のシナリオでは、開発で直面する障害は少なくなります。しかし、おそらく最も重要なことは、この調査の試算によると、2050年までの合計コストを考慮すると、第2のシナリオの方が第1または第3のシナリオよりもコストが高くなるということです。
ゼロおよび低炭素燃料の効果を証明するために短期的に実施する研究・開発・投資は、長期的には割にあうと識者たちは信じています。こうしたゼロ炭素燃料の道筋を開拓することで、脱炭素化への道は開ける、と識者は口を揃えます。
同時に、移行前の化石燃料の消費量を削減するためには、エネルギー効率化技術と運航対策を発展させることも、短期的には重要となります。
IMOの脱炭素化目標を強化することも、プロセスを加速させるのに役立つでしょう。しかし、3つのどのシナリオでも、代替燃料の生産と供給を大幅に増やす必要があるでしょう。言うのは簡単ですが、計算すると啞然とさせられます。リカルド社が行った試算によると、2050年には、年間9~1218ジュールの代替燃料が必要になるとのことです。この小さな方の値でも、2,500,000,000,000 kWhに相当します。この数字が参考になるかどうかわかりませんが。
これを実現するためのインフラへの投資は、設備投資と操業コストをあわせて2020~2050年で660億ドル~4,360億ドルになると試算されます。
とすると、海運業が、これらのシナリオを検討して「対応に乗り出す必要があるかどうか」ではなく、「どうしたらベストの形で実現できるのか、そして、これ以上プロセスを先のばしにすると実際にどれくらいコストがかかるのか」を自問することになるのは、まず間違いのないところです。