人工知能を恐れるのは誰か?
人工知能(AI)– これは、見方によっては、人類の最も偉大な技術的進歩だと言われたり、生き残るうえでの最大のリスクだと言われたりしています。ただ、実際は、従来から言われるようにその中間に当たるようなものなのでしょう。
技術がまだその初期段階にあるとき、本当の影響について話すのは難しいものです。しかし、Riviera Maritime Mediaが開催した最近のウェビナーによれば、海運業界での人工知能の使用実績はまだ少ないものの、よりスマートな輸送を支える可能性があるということは間違いないようです。
船舶性能の改善に関して従来からある課題の一つに、収集するデータが変化に富んでいるということが挙げられます。船舶の速度や出力性能のデータは、さまざまな変化で満ちあふれています。これは、船長の判断や特性要件などのあらゆるものが反映された結果であるため、代表的なデータの収集というのが難しいのです。
こうしたことが、従来技術を使用したモデルの作成を困難にしていますが、ニューラルネットワークは、こうした変化を扱いやすいものであると理解しているようです。サウサンプトン大学で海洋用途のAIを研究しているアダム・ソビー准教授は、自らの研究の中で、AIを使用して船舶の出力需要を予測。実際の気象条件を用いて、予測誤差がわずか2%という実績を出しています。
「これは、モデルや曳航水槽を用いた予測よりも良い結果です。ほとんどの船舶のデータにおいて誤差は4%であり、この結果をフリートの予測に応用することが可能です。すべての船舶に装備させる必要なく、高い精度で予測できるのです」ソビー准教授はこう語ります。
このデータを、ドラフトやトリムの最適化、船体の空気潤滑と組み合わせることで、燃料の大幅な節約が可能になり、CO2排出量の削減にもつながります。ソビー准教授は、気象、潮流、港湾の遅れに関するアルゴリズムを使用して速度や到着を調整し、航海を最適化することで、船主は収益(定期用船の収益と仮定)を無理なく年間7%増加させることができると考えています。
フランスの企業であるSINAYは同様の手法を提供することで、航海性能に関する取り組みを行い、アルゴリズムを展開してナビゲーションを最適化し、効率化や費用の節約を図っています。同社は、海の「Google Map」を作成して、環境特性を特定するようにしています。この環境特性は、従来から計算が困難なものでしたが、効率性には非常に大きな影響を与えます。
これには、実際の船舶や位置の情報の信頼性を高めるために、AISデータに照らし合わせて整えて検証された実際のデータを使用した、AIのトレーニングが必要になります。同社のプロダクトエクスペリエンスマネージャーであるマリー・ベッソン・レオ氏は、「AIはマジックではありませんし、マジックを起こそうとするものでもありません。トレーニングと構築、そしてデータのインプットが必要なのです」と述べています。
同氏は、AIの利用がなかなか進まないのは、リソースの不足や多くの誤解によるものであり、海洋分野のユーザーはこれらに対する取り組みを行う必要があると付け加えました。多くの人は、AIに関する意見を持っていますが、その応用が自身の分野にどのように関わってくるかを知っている人は多くありません。
ソビー准教授は、「AIとは近いうちに何らかの形で“自律型“輸送が実現することを意味しているのだ」というような考え方を否定し、海洋分野の中心にいるのはまだ人間なのであると反論しています。「AIは、輸送業務のやり方を増やすものであり、人々を危険から守るものなのです。機械学習をうまく適応させて、長きにわたり使用しているものの、完全な自動化プロセスを備える真のAI実現するのは、まだ遠い先の話ですね」こう語るソビー准教授は、次のように続けます。
「自律型輸送は、その実現に向けた段階的な進歩です。背景にはさまざまな動きがありますが、ほとんどの場合、ビジネスとして取り上げられることもありません。まだ人が必要なのであり、船長という職を廃止しても費用の削減にはなりません。まだリーダーシップをとる人が必要なのです」
ベッソン・レオ氏は、自律型船舶については心理的閾値があり、航空宇宙分野にも同様の壁があるのだと言います。ユーザーを対象とした調査では、現在ではまだ見られないものの、AIが人に置き換わることに関する現実的な懸念が示されています。「AIは人の活動のサポートとなるものであり、準自律型船舶であっても、まだ人が乗船しなければなりません」同氏はこう述べます。
この分野の企業にとって、AIという観点から見れば、データは新しい燃料のようなもの。しかし、私たちはこれまで貴重なリソースを無駄にしてきました。今後は、忘れ去られるのを防止し、データを投げ捨てるのではなく利用するために、知識を移行させる必要があるでしょう。
ベッソン・レオ氏は、データの所有者はまだ共有ということに慎重であるため、「データ共有に関する戦略を持ち、パートナーには見ていただけるようにする必要がある」と考えています。そのため、考えられているAIの応用が実現するまでには、時間を要するかもしれません。
「特に、港湾関係の人は私たちに対し、データはあるものの、それを使用してどうしたらよいのかわからないのだと言います」同氏はこう付け加えます。「しかし、AIは面白いものです。既にあるデータが整えられて構造化されていれば、それをAIに提供することで、モデリングに取り込まれるのですから」
AIが天候を予測することができ、それに基づいて船舶の経路を予測することができるのであれば、保険会社はそれを役立つものとして考えないのでしょうか?AIに関して、そういう別の側面はないのでしょうか?ソビー准教授はそうは考えていないようです。天候に関する諸条件が良くなり、その価値に関心が集まっているものの、まだその多くは理論的なものなのです。
「まだ船長が主導権を握っており、航行用のAIはまだ判断において警戒情報に頼っている状態です。AIが行っているのは、一般的な案内や見通しの提示なのです」ソビー准教授はこう述べます。
航行のための真のニューラルネットワークを構築するには、入手できる航路の情報や港湾データをすべて取り込み、それらを交通管理、最適化、そして船舶の安全性をサポートする統合VTSに組み込む必要があります。
ソビー准教授は、これをサポートするための規制が十分追いついていないと考えています。「私たちには、AIモデリングを行うためのデータ規格が必要ですが、規格の欠如が私たちの仕事に大きな影響を与えています。私たちが進歩するためには規格が必要なのです。私たちには、存在論、つまり、変化がもたらすものがはっきりと見えるようにするための基礎的要素が必要なのです」