2つの業界の物語(パート2)
ビジネス・スーツと海運業のボイラー・スーツを隔てる溝が存在することを改めて認識する必要があったとすると、新型コロナウイルスの感染拡大はそれを衝撃的なほどの明確さで示しました。それをもっと簡単に言えば、過去18ヶ月間、船員達は上陸することができず疲弊する一方、ホーム・オフィスで働く私達の生活には大きな問題はありません。
さまざまな調査により、問題点が明らかになり、一時的な混乱の背後にある長期的な問題が明らかになりました。変革のチャンスが訪れ、海運業界がより安全で、より公正で、より大きな多様性があり、社会により大きく貢献するようになれば、新たな職を求める人材が増える可能性があります。
Halcyon Recruitment社、Diversity Study Group社、Coracle Maritime社が今年初めに実施した「12th Annual Maritime Employee Survey (第12回年間海事従業員調査)」によると、ほとんどの陸上スタッフは、雇用主の新型コロナウイルスのパンデミックへの対応に満足していますが、差別は依然として問題となっていることがわかりました。
ほぼ3/4の回答者が、雇用主がパンデミックに適切に対応したと答え、68%がフレキシブルに仕事をするための支援を受けたと述べました。この調査では、あらゆるセクター、職種、地域の陸上勤務の海運関係者から1,000件以上の回答を得ました。
Halcyon Recruitment社の最高経営責任者であるハイディ・ヘッセルティン氏は、今回の調査結果から、企業は従業員のサポートに努めるべきであり、パンデミックが収束に向かっても、人材の減少に直面することになるだろうと述べています。
前回のレポートで新型コロナウイルスが雇用主に前向きな変化の機会を与えるだろうと楽観的な見方をしていた彼女は、雇用主に対して雇用関係を優先的に見直すよう求めました。彼女は、これを怠り、事態が落ち着いて他の雇用機会が浮上して来ると、業界からかなりの人材が流出するだろうと警鐘を鳴らします。
調査の結果を見ると、新型コロナウイルスの感染拡大によって、人々により良い仕事に移ろうとする気持ちが芽生えたことが読み取れます。回答者の87%もが、新たな仕事に転職する準備ができている、または転職に前向きであると答えました。これは、リモート・ワークの成功が原因だと思われます。
51%の回答者が、業界に差別が存在することを直接感じると答え、引き続き従業員の扱いに問題があることが示唆されています。このような差別の最大の要因は国籍(53%)、性別(44%)および年齢(40%)ですが、差別の懸念を雇用者に提起できると感じているのは、回答者の半数のみに留まっています。
10人中7人が、雇用者による多様で開放的な労働力を達成するための努力が必要だと考え、63%が自分達にとって職場の多様性がきわめて重要だと述べています。
また、ヘッセルティン氏は、新型コロナウイルスの感染拡大が継続する、また悪化するにつれて、海運業の陸上勤務者の状況と、海上勤務者が直面している厳しい状況のギャップが拡大していることを指摘しました。
船員の状況は、「Mission to Seafarers latest Seafarers Happiness Index (船員のためのミッション – 最新の船員幸福度指数)」報告書で明らかになっています。この報告書では、パンデミックが始まって以来、全体的な「幸福度」が過去最低になっているという、福祉に関する厳しい状況が示されています。
この報告書では、船員が、上陸休暇がないために常に同じ環境にいることに不満を感じていることが強調されています。この報告書には、次の3つの主なテーマがあります。港での上陸禁止、キーワーカーの資格付与の継続的な遅れ、乗組員の最小限の移動などは、より幅広い予防接種プログラムの必要性を反映しています。
移動の自由がなく、契約が延長され続けることで、船員がかつて持っていた前向きな姿勢は失われ、海上での生活の多くの面で退屈さや苛立ちが増しています。調査に回答したある船員は、もう1年半も上陸していないと述べています。これは、業界に劇的な対応が必要であることを強く示唆しています。
上陸休暇が禁止されていることや、長時間船内にいることによる影響で、体調管理がおろそかになっています。航海の当初、前向きでモチベーションが高かった船員も、任務が何ヶ月にもおよぶことで無気力、無関心、肉体的疲労を訴えるようになっています。
船員をキーワーカーに指定しようという機運は、かつては前向きな話題でしたが、今では議題から外れているようです。その結果、昇給、キーワーカー認定、船員は不可欠でありながら、新型コロナウイルスの感染拡大中に見落とされていたという事実が見直されています。
また、回答によって、長時間労働や仕事量の増加にもかかわらず、会社(すなわち人材派遣業者)が船員に嘘をついたり、給与を支払わなかったり、過少支給したり、さらには船員を脅したりしているなど、憂慮すべき傾向が浮き彫りになりました。中には、毎日11~12時間の労働を強いられていると報告した船員もいます(新型コロナウイルス感染拡大前は8~9時間)。
最後に、BIMCOと国際海運会議所(ICS)が最近発表した「Seafarer Workforce Report (船員労働力報告書)」では、以前と同様に士官不足の可能性について警告が発せられています。これは今に始まったことではなく、新型コロナウイルス感染拡大にもかかわらず、業界は対処する方法を見つけていません。
今回、認定士官の必要性が高まっているのは、陸上のスタッフと同じように人員削減のリスクがあるからです。船員の将来的な需要を満たすためには、業界が積極的に海上でのキャリアを推進し、環境に配慮し、デジタルに接続された業界に必要な多様なスキルに焦点を当てて、世界中で海事教育・訓練を強化する必要がある、と著者は指摘しています。
ICS事務局長のガイ・プラッテン氏は、船員が海運の仕事から離れていくという現実的な懸念に対処し、船員の定着率の傾向を分析し、対応する必要があると付け加えています。
そうとは言え、パンデミックの発生から1年半が経過し、いまだに多くの船員が船内に閉じ込められている状況では、福利厚生や平等、定着率の重要性を説く言葉も空虚に響きます。
了