我慢するだけ?
まずは良いニュースをお伝えします。ザ・ミッション・トゥ・シーフェラーズ(MtS)が発表した「船員幸福度指数」は、船員の福利厚生向上のためのさまざまな取り組みが実を結び、今年第2四半期に上昇に転じました。
キリスト教の船員慈善団体であるMtSによると、全体的な幸福度は10段階評価で7.21となり、前四半期の5.85から上昇しました。保険会社Standard Clubと船舶検査会社Idwalの協力を得てまとめられたこの指数の上昇は、約3年にわたるロックダウンやサプライチェーンの危機を経て、各国の解決策が船員のために役立ち始めていることを示しています。
MtSは、コロナ禍後の世界が船員にとって完全に受け入れられるものかどうかは不明であるものの、一部の港湾の制約や船員の交代制限が緩和されていることから、船員はコロナ禍の先にある光を見始めていると述べています。
MtSの事務局長Andrew Wright氏はTradewindsに対し、船上での生活を改善して船員の士気を高めるために業界が払ってきた努力がおおむね実り、一部の楽観論が戻りつつあることを喜んでいると述べました。しかしWright氏は、「まだ改善できる部分もあります。だからこそ、船員の幸福度と乗組員の福利厚生を向上させるために、組織による有意義な対策の継続が非常に重要なのです」とも述べています。
MtSによると、指数の上昇がさまざまなカテゴリーで見られており、多くのソーシャルイベントが士気向上に寄与しているとのことです。船員は、インターネット接続、食事、陸上休暇、船員センターの拡充などに高い満足感を示しています。
しかし、MtSは、船員の福利厚生向上のためにはまだやるべきことが多くあり、幸福度の回復は「簡単に失われる可能性がある」と警告しています。四半期ごとの改善が楽観論に結びついているかもしれないものの、ポジティブな見方と同じくらいネガティブな見方もあると、MtSは付け加えています。労働時間と休息時間にはまだ矛盾しているところもあり、報告書に引用されている個々の事例を見ると、この問題にもっと注目する必要があることがわかります。
ポジティブな見方がある一方で、船員幸福度指数の提唱者であるSteven Jones氏は、業界サイトSplash247に寄稿し、士気向上のために業界が取った対策を率直に評価しています。短期的には士気向上が有効かもしれないが、より大きな変化を求めるならば、改善に対する姿勢や対策の実践において深いレベルでの転換が必要だというのが、Jones氏の見解です。
同氏も、乗組員の交代条件が改善され、コロナ禍による規制が緩和され、インターネットアクセスに関する海上労働条約の改正が発表されたことにより、指数が今期急上昇したことについては喜んでいます。しかし、同氏によると、調査担当者は、アンケートに対する回答の中に、表面的な士気向上の試みと本質的なニーズとの間の大きな乖離を示す不安な傾向があることに気づいたのだそうです。
この調査では、新しいジムやAV機器を導入した船の船員から、船上での健康を増進するための新しい役割が割り当てられたり、人々が集うためにスペースが改装されたりしたことなどを聞いています。しかし、これで終わりではないと同氏は言います。船員から寄せられる意見は、数字とは異なるより深い問題なのです。
善意によるさまざまな取り組みがあっても、仕事と食事、そして睡眠以外のことをする時間やエネルギーがないと感じている船員があまりにも多いのだとJones氏は言います。新しいキットやアイデア、スペース、そして役割も、実際にリラックスしたり楽しんだりする機会がなければ無駄になってしまいます。
このように、船員に提供するものが実際よりも楽しく、気持ちを高め、役に立つものであるかのような印象を与えることができる事業者もいるのだとJones氏は指摘しています。監査のうえでは改善要件を満たして良い印象を与えるものの、船員が疲れ切っていて使えないため、放置されてしまう改善策もあるのです。
改善策を行っても、労働時間と休息時間のスケジュールの中でそれらを活用する時間がないことは、幸福度の低下や精神衛生の悪化につながる恐れがあります。頼れる人や相談できる人がいて、容赦ない仕事のスケジュールにも柔軟性があれば、改善策はもっと価値があるのだろうとJones氏は付け加えています。
同氏が船員から聞くフィードバックは、「仕事が多すぎて、リラックスするための時間がない」というものです。多くの船員は、仕事のためにすべてが費やされ、余暇を過ごすためのエネルギーや食欲はほとんど残っていないと感じているのが実情です。
船員に必要なのはハード面ではなくソフト面だと、Jones氏は結論付けています。「私たちに実際に必要なのは、本当の問題を詳しく調べることなのです。私たちは全体を見る必要があるのであり、絵に描いたような希望はいらないのです。船内に新しいジム設備を導入するための予算枠を設けたところで、問題は解決しません。固定観念から抜け出す必要があります。船員はある部分だけにいるのではなく、全体にいるのです」と同氏は語ります。
真の変革とは、進歩を阻む本当の問題を理解することです。しかし同氏は、非常に多くのことをしなければならないのに人が少なすぎるのだと付け加えます。疲れやストレスを感じ、サポートがなく、イライラし、仕事をこなすのに必要なサポートがないと感じている船員があまりにも多いのです。その結果、幸せではなく悲しみに包まれ、最終的には自分ではどうしようもない安全上のリスクを抱えることになります。
船員幸福度指数の詳細とアンケートの回答はこちらから。 https://www.happyatsea.org/