LEOによる新サービス - 乗組員の通信に革命?
2022年、そしておそらく2023年の最大の海事技術のトレンドは、私たちの頭上で起きています。そのトレンドとは、StarlinkやOneWebなどのプロバイダーによる新しい低軌道(LEO:Low Earth Orbit)衛星システムのこと。これはまだ完全に利用できる状態ではありませんが、船主が乗組員の福利厚生や通信に関する戦略を見直すきっかけとなっています。
なぜなら、海運業界はこれまで、海上を航行する船舶に信頼性の高い高速インターネット接続を整備するうえで数々の問題を抱えていたからです。
衛星を利用したインターネットサービスの品質、そして利用しやすいものになるかどうかは、船舶の位置、衛星の大きさや位置、最も近い陸上のゲートウェイまでの距離、規制上の制約、使用する機器の種類などの要因によって大きく異なる可能性があります。また、船主が接続料を負担するか、あるいは船員に利用料を負担させるかという問題もあります。
LEO衛星の接続性により、スループット速度や遅延という点から必然的に規則を改訂することになるでしょうが、一部の人々が当初予測した低価格化は、すべてのケースで実現するわけではありません。それでも、LEOにより、これまでのシステムにつきものであった遅延がなくなり、はるかに高い帯域幅が提供され、あらゆる種類の新しいサービスやアプリケーションが実現されるようになるのです。
これは間違いなく、船舶の乗組員が待ち望んでいたニュースでしょう。インターネットにアクセスできなかったりサービスが不安定であったりすると、船上での生活が孤立し、乗組員の士気低下、不満、離職率の上昇につながる可能性があります。
広帯域で遅延の少ないインターネット接続が利用できれば、乗組員はストリーミングベースのテレビや映画サービスにアクセスしたり、プライベートで友人や家族とビデオ通話をしたりすることも可能になります。インターネットアクセスの向上により、会社のソーシャルネットワーク、チャットツール、イントラネットへのアクセス性が良くなり、人事チームとの接触頻度が増え透明性も高まります。
ただ、これが全く良いアイデアだと思う人ばかりではありません。一部のP&Iクラブは以前、乗組員間の社会的交流が欠如していることや、息抜きの時間を共有したりすることとは対照的な「スクリーンカルチャー」の広がりを嘆いていました。
その理由はさまざまあり、社会的な交流の欠如をテクノロジーだけのせいにしているわけではありません。昨年、船員幸福度指数(SHIAP)によって示されたように、船員からは「仕事、食事、睡眠以外のことをする時間やエネルギーがない」という声が寄せられているため、船主が提供する共同施設の中には利用されていないものもあります。
しかし、インターネット接続には、単なるエンターテインメントの枠を超えたプラスの効果もあるのです。
海運業界は長年にわたり、船上での乗組員の健康や福利厚生をサポートするためのより良い解決策を模索してきました。遅延の少ない接続は、臨床医が患者と直接やり取りを行う遠隔医療や遠隔健康管理アプリケーションの利用拡大をサポートするために利用することができます。同じビデオ機能を使うことで、乗組員は、心の健康を維持するためのカウンセリングやアドバイスを受けたりすることもできます。
より質の高い広帯域のサービスにより、乗組員は、心身の健康維持とヘルスケアのために、陸上の医療スタッフによる診察やカウンセリングを定期的に受けることができるようになるのです。
さらに、遅延の少ない接続により、乗組員はオンラインコースや認定プログラムなど、インタラクティブで臨場感のあるトレーニングや教育リソースを利用でき、スキルや知識の向上に役立てることができるのです。船員はダウンロードした教材をオフラインで学習するのではなく、ストリーミングサービスを利用して船内で規制の最新情報、安全情報、機器のスキルに関するトレーニングを受けることができ、船員とその同僚は陸上のプロバイダーともつながることが可能になります。
それ以外の要素もあります。スマートでデジタル化されたフリートへの移行が叫ばれる中、運航会社は、これまでの最低限のレベルよりもはるかに多くのデータと情報を必要とするようになるでしょう。
船主は、効率性の向上、運航経費の削減、二酸化炭素排出量の削減を目指しているため、送受信するデータ量を増やしています。この変化に対応するため、サービスパッケージの柔軟性を大幅に向上させるとともに、提供される帯域の保証が求められています。
LEOによる新サービスは、プロバイダーによるサービスの販売方法をはじめ、さまざまな点で変革が起こるでしょう。これは、状況によっては、VSATユーザーがかつて利用していた保証された帯域幅の「使い放題」モデルではなく、ボリュームベースの「ベストエフォート型」データモデルになるかもしれません。なぜなら、混雑する地域では、船舶は依然として帯域幅を奪い合うことになり、一部の人が予測したほどにはサービスが安くならない可能性があるからです。
それでも、乗組員の通信用にLEOサービスをいち早く採用した船主にとっては、利用できるサービスの質という点で劇的な違いが生まれるはずです。貴重な海上スタッフの面接では、通常、船内でのインターネットアクセスについて質問されます。今後は「LEOのサービスはありますか?」と聞かれそうですね。