権力に対して真実を語る
数十万人の船員が新型コロナウイルスによる規制のために下船できない状況で、業界は援助を訴えてきましたが、いくつかの例外を除き無視されてきました。これは努力が足りなかったからではありません。海運業と専門機関は、警鐘を鳴らす努力を重ねてきたにもかかわらず、ほとんど反響を得られませんでした。
何が悪かったのでしょう?国際機関が最も必要とされるときに弱体化していたことも理由のひとつに挙げられますが、問題はそれよりもずっと深刻です。
ILO事務局長のGuy Ryderが今週のICSウェビナーで述べたように、国際社会は危機への対応を誤りました。2008年のリーマンショック後の場合とは異なり、各国の対応はまとまらず、まとめるための努力も見られませんでした。
「根本的な問題は、国際協力への意欲があまりないことです。海運業にとって深く憂慮すべきなのは、30万人の船員に悪影響を及ぼしている隠れた人道的危機が存在することです。なによりICSとITFとILOの国際的社会連携のように、私たちには問題解決の手段があるだけに、なおいっそう痛ましいのです。」と彼は述べました。
業界は、こうした手段を用いてきましたが、望ましい効果を得られていません。うまくいかない理由を考えることは、海運業の責務です。「人々に伝えられないとか、問題を認識させられないからではないのです。もしすでにローマ教皇や国連事務総長に訴えていたとしたら、ほとんど打つ手は残っていません。これまで政治的対応はまったくありません。」と彼は付け加えました。
その結果、厳しい現実として、各国政府は世界経済を支える人々を大切に扱うべきなのに、あまり気にかけていません。最近のパンデミックに関するG20閣僚会議では、海運業への言及は一度だけで、その優先順位は観光業よりもずっと下です。
ここで、タンカーオペレーター大手のEuronavのCEOであるHugo de Stoopが登場し、業界の援助要請に対してほとんど反応がなかった理由を正確に説明し始めました。彼は、公正を期すために、続く発言の中で協調の努力がなされたことも取り上げました。しかし同時に、積極的に動いたのは業界大手だけであり、細分化の進んだ海運市場では、小規模業者を取り込む方法を見つける必要があることも言い添えました。
「私たちが迅速に対応できなかった理由は、過去の業界の成り立ちによるものです。私たちは、目立たたず、忘れられることを好みました。私たちは、税金を払わず、規制を受けないことを好みました。そのためほとんどの場合、とても小さく目立たない優遇税制のある場所に会社を設立します。当然の結果として、事態が悪くなったときにどこの政府からも同情してもらえず、しかも太平洋やアフリカの小国に政治的影響力はありません。」これほど正直に話す船主はほとんどいません。
「最も大きな旗国でも、影響力はゼロです。彼らは国連に訴え出て返事をもらうことができません。なぜなら、経済的または政治的に何も代表していないからです。この現状は徐々に変える必要があるでしょう。」と彼は付け加えました。
彼が一度ならず指摘したように、人々が業界に好印象を抱いていないことが問題を悪化させてきました。さらに最近のモーリシャスでの大事故は、海運業が法の適用を受けずに活動しているという一般の認識を高めただけでした。この認識は是正されなくてはならず、業界はこれまで以上に自らのことを積極的に語る必要があると彼は述べました。
「船員は、キーワーカーになる必要があり、現在のビザ制度は延長されるべきです。私たちは、下船する船員を事実に反して脅威と見なしてきました。彼らは[感染していなくても]、事実上、15日間隔離されてきました。検査が必要なのは、これから船に乗り込む船員です。船上の乗組員は脅威ではありません。」
Gerardo Borromeoは、Philippine Transmarine CarriersのCEOであり、Intermanagerの前会長です。それゆえ、海運業の大半を継続している国のために、フィリピンは安全な移動と帰国を可能にすることの重要性を少なくとも理解していると、熱心に指摘しました。
ウイルスが襲来したとき、現地の事情を無視して国際協定が押し付けられ、壁が築かれたと彼は述べました。2019年に船員がおよそ330億ドルを稼いだフィリピンにとって、影響は甚大でした。彼は、その額が2020年に7~8%減少する可能性があると推定しました。
「通常なら、船員は英雄として心から歓迎されます。パンデミックにより、彼らは感染媒介者と見なされ、審理される前に有罪扱いされ、しかも検査体制が整っていなかったので、ドミノ現象が起きました。」と彼は語りました。
複雑で多層的な問題には多国間の協定が必要だと、彼は提案します。なぜならこの業界は、100年に一度起こるような事態を99年も放置できないからです。彼によれば、より良い計画の鍵となるのは、海運業をシステムと考え、個々のパーツに分割してひずみとなる点を洗い出すことです。
「海運業は、引き続き事業活動を行うことができており、目立たないにもかかわらず重要な役割を担っています。しかし、運航を保証する人々の視点からこれを見なくてはなりません。」と彼は付け加えました。「国内または国際身分証明書のテーマは、感情的な議論を引き起こしますが、そのおかげで、自由に移動することができ、またそうあるべき人を区別することができます。将来に取り組むには、物流ソリューションが必要です。」と彼は付け加えました。
さらに彼は、はるかに悩ましい影響は船員の心の健康に関することだと強調しました。「これに対する関心は新型コロナウイルスの前から高まっていました。疲労の問題は仕事につきものですが、彼らを助けるには、中心的課題である定期的な通信アクセスに取り組まなくてはなりません。これを目立たないままにしておくことはできません。フィリピン人は、家族を経済的に助けるために海に出ます。しかし、そこには代償が伴います。経営者と所有者は、そのプレッシャーを認識する必要があります。」
通常、階級社会は、いかなる争いに加わることも控えますが、DNV GLのKnut Orbeck-Nilsenは、政治家の説明責任がないことと、国際利益よりも国内規制が優先されることに失望を表明しました。
「これは、極めて重要な物流チェーンに対する脅威であり、私たちは非常に懸念しています。疲労と不透明性に直面している船員は、深刻な安全上の問題を引き起こします。現地の政治家が真剣に立ち向かわなければ、船員に犠牲が出るでしょう。本当に心配なのは、危機が続くことです。そうなれば、私たちはもっと深刻な問題に直面するでしょう。」