デジタル化を進める海運業界が、厳しい愛の中で学ぶ
海運業界は、航空業界から何を学ぶことができるでしょうか?この問いかけは、特に新しいものではありませんが、その重要性は今でも損なわれていません。なぜなら、経営者たちは、デジタル化を進め、それを社内のプロセスを越えてサプライチェーンにまで浸透させることに苦戦しているからです。
海運業界が学ぶことができるものは、まだ多くあるようです。特に、標準や相互運用性という点でITベンダーやサプライヤーに厳しい要求を課したり、運送業者との関係をリセットしたり、財務的利害関係者を完全に味方につけたりする必要があるように思えます。これらのいずれかで失敗すれば、業界が求めている才能ある新しい人材は、すぐに別の職を選んでしまうことでしょう。
国際航空運送協会(IATA)でデジタルカーゴ部門の責任者を務めるヘンク・ミュルダー氏、そしてMSCの最高デジタル責任者でありデジタルコンテナ船協会(DCSA)の会長でもあるアンドレ・シムハ氏は、ともに(コロナ禍による)移動禁止措置や差し迫る米国大統領の到着が原因でジュネーブに足止めされながらも、アテネで開催されたスマートマリタイムネットワーク会議の際に、情報交換の機会を持ちました。
シムハ氏が述べるには、紙からEDIそしてオープンAPIへという、デジタル化へ向けた航空業界の進歩は、海運業界の進歩と似ているとのこと。大きな違いは、優れたデータ交換規格がなく、大規模なソリューションの構築能力に乏しかったため、交換されるデータが基本的なメッセージに限られてしまうことなのです。
「非常に多くの航空会社が連携に成功しています。海運業界では、少数の海運会社であるものの、連携して規格を作成し、それを採用しています。これは興味深いことですね」シムハ氏はこう語ります。モチベーション、効率性、eコマース、そしてデジタルプラットフォームなどは航空業界と類似しています。では、IATAはどのようにしてデジタル化を成し遂げたのでしょうか?
ミュルダー氏は、「まだ空を飛ぶ飛行機が少なかった1929年に設立された『古い組織』であるため、航空会社が一同に会し、ブランデーと葉巻を楽しみながら、ビジネスの進め方について同意するというのは容易なことでした。このような精神は、今も組織に残っていますよ」と、冗談交じりに言います。
「航空会社が集まって何かを決めるときは、それに同意するつもりで臨み、一旦同意したら実行し、一部の判断は強制的なものとして実行する、という考え方があるのです。あることが決定されると、どの航空会社もそれを実行しなければならず、実行しない場合は業界を去るよう求められる場合もあるのです」皮肉なことに、デジタル化はIATAが強制できないテーマです。「これができていれば、私たちの仕事は20年前に終わっていましたよ」ミュルダー氏はこう付け加えました。
何事においても、影響力が少なければ役立ちにくいものです。「人が多ければ、それが民意だとされます。そういう意味では、人が少ないと厳しいですね。海運業界でどのような戦略が機能するかを見るのは興味深いことです」
シムハ氏は、定期便を運航する海運会社には同じような仲間意識があり、そうした海運会社は『テクノロジーは差別化要因にならない』という点で意見が一致するのだと言います。「かつては、あるキャリアが1つのアプリやソリューションに投資を行い、半年後に皆がそれをコピーしていたのです。これは効率的なことではありません」空輸と海運では、同じお客様を抱えていることが多いのですが、海運では、より多くの第三者企業と取引を行っています。「そうした企業と取り引きする多くの場合、規格や効率性に目を向ける時間はほぼないのです」シムハ氏はこう言います。
DCSAは、顧客、規制機関、関税当局、政府、ベンダー、港湾、ターミナルと話し合い、データ交換に関する規格を優先させるべきであると、全員を説得する必要があります。それぞれが従来の生産システムを所有しており、それによって、いつ、どこで、どのように変更されるのかが決まります。「多くの企業は、始まるまで何もしません。これが、私たちのスピードを落としているのです」
ミュルダー氏は『規格は製品ごとに異なるべきではない』と言います。しかし、空輸と海運という2つの輸送形態での問題は、それらの規格に顧客が直接関わることがないということです。なぜなら、顧客の代わりに運送業者が対処しているからです。これは、IATAが解決しようとしている問題であり、多くの運送業者がこの改革に支持を表明しています。
「しかし、私たちが気づいたのは、運送業者自身に横の連携がないということです。海運、空輸、トラック輸送、鉄道輸送について運送業者と話そうとすると、運送業者は、輸送分野全体を分割して考えるのです。だから、私たちは話の内容を変え、場合によっては、海運と空輸の利益をまとめることも必要なのです。どの企業もデジタル化を進めています。ただ、そのアウトプットが同じではないということなんですよ」ミュルダー氏はこう述べます。
海運業界では、基本的なデジタルインタラクションの達成までに長い時間を要しました。しかし、シムハ氏は、こうした遅れは、顧客のみならず、新技術の使用を承認する必要がある銀行、保険会社、その他の利害関係者も満足させようとして引き起こされたのだと指摘しています。
自社開発のソフトウェアやシステムの使用も、よくある問題です。シムハ氏は今回のZoomコールの中で、荷積み業者に2種類の電子船荷証券が存在したという経験を話してくれました。それらの業者は、明らかに技術の共有をためらっていたのです。ミュルダー氏もIATAのワークショップにおいて、『陰に隠れて顧客と話しながら』監視の目を避けているベンダーを確認しています。しかし同氏は、IATAを蚊帳の外にしてもプラットフォームは作成されるのであり、ベンダーは遅かれ早かれ規格に準拠しなければならず、あらゆる方面から連絡が来るようになると言います。
どのような場合でも、最も避けなければならないのは、デジタル化しなかったために、海運が顧客にとってさらに魅力に欠けるキャリアオプションになってしまうことです。ミュルダー氏は、過ちに気づいてもらうために、『10年後には大学生世代の若い人たちが会社を経営するようになる』という警告を発してきました。「私たちは、デジタルネイティブの人たちに報告するようになるのです。そのような人たちが、倉庫でクリップボードや紙の取引書類を持った人々を受け入れるとは思えません。私は今でさえ、1970年に作成されたコードで書かれたITプロジェクトを見せられるのです。デジタルネイティブは、そんなものを受け入れないでしょう」
この『若い世代』が、もうじき労働力の大多数を占めることになります。シムハ氏は、「すべきか、すべきでないかという話ではないのです。MSCでは、デジタル化が最優先事項ですが、これは単独でできるものではありません。若い人たちは、古いやり方を受け入れないか、海運業界で働こうとしなくなるでしょう。だから、私たちはデジタル化を進める必要があるのです」と述べています。