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August 31, 2023

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ESGは海運業界で最も誤解されている言葉なのか

この言葉は、ビジネスの風景を一変させるゲーム・チェンジャーになると説明されてきました。投資決定の背後の原動力となり、また金融機関だけでなく、顧客や取引先とのやり取り、流通モデル、人事方針などにも影響を及ぼすと思われたたからです。

それは、炭素強度制度(CII)でも、既存船エネルギー効率指標(EEXI)でもありません。事業がグッド・プラクティスを示し、継続的改善を行おうとしていることを示す手段である、環境・社会・ガバナンス(ESG)です。

今までのところ、ESGが最も実感しうる影響を及ぼしてきたのは、銀行セクターにおいてでした。金融機関は、二酸化炭素排出を伴うプロジェクトや、潜在的な労働搾取のリスクのあるプロジェクト、あるいは企業行動に関する適切な基準を欠いたプロジェクトに関与するのを避けようとしてきたからです。

海運業と取引のある銀行は、ESGの課題を反映した事業の比率を増やす方向へと、急速に動いています。しかし、海運業界で輸送する船荷の大半が何らかの形で炭化水素であることを踏まえると、エネルギー輸送を完全に放棄することは、控えめに言っても非現実的でしょう。

こうした善意にもかかわらず、ESGを重視することへの批判は消えず、批判者たちは、「意識が高い」ことや無意味であることを嘲笑しました。これは、関連する規制の基準値がなく、企業が非常に優れているかのように見せることが可能な、一種の偽善だ、というわけです。

しかし、ESGをベンチマークや格付けメカニズムとして利用する傾向は、今後も変わらないでしょう。実際、海運業でのESGの活用は、大きな刺激を与えつつあります。

スプラッシュ24-7によると、英国のプリマス大学国立アテネ・カポディストリアコス大学は、業界の専門家からなる諮問委員会の意見を取り入れながら、海事セクターの特殊性を踏まえたESGの報告方法の枠組みと指標を開発しました。

海運セクターにおける信頼性の高いベンチマークのギャップを埋めることを意図して策定されたこの指標は、さしあたって、70社以上の海運会社を対象としています。その目的は、標準化された報告方法を用いて、海運会社が正確かつ測定可能なESGプロファイルを示せるような、全体的な報告の枠組みと指標方法を提示することです。

プリマス大学の海運研究グループのトップを務めるスタブロス・カランペリディス博士は、この新指標を発表するにあたって、「この指標は、企業が自社の立ち位置を効率的に評価するのに必要な時間と複雑さを軽減することで、過渡的で困難な時期にある業界を支援することを目指しています」と述べています。

とはいえ、この指標の利用者はもちろん、その作成者も、この指標で導き出される数字に納得するには、まだ時間がかかりそうです。

フィナンシャル・タイムズ紙の最近のレポートによると、指標を提供するコンサルタント会社のサイエンティフィック・ベータ社の調査では、ESG指標で高い評価を得た企業も、評価の低い企業と同程度の公害を引き起こしているということです。

サイエンティフィック・ベータ社では、環境要素を切り離して考えた場合でも、ESGの格付けは、炭素強度とはほとんど関係がないか、もしくはまったく関係がないと考えています。また、炭素強度の削減が事実上相殺される原因となる相関関係について詳しく調べたアナリストはほとんどいないと指摘しています。

ESGへの投資には大きな需要があり、モーニングスターによると、今年上半期の「サステナブル」なファンドへの資金流入額は全世界で490億ドルにのぼる一方、他のファンド業界では90億ドルの資金流出があったことが観察されています。

研究者たちは、主要格付けプロバイダー3社が提供する25種類のESGスコアを調査しました。その結果、投資家が炭素強度向けに株式を重みづけするだけで得られる炭素強度削減の92%は、ESGスコアを加えると失われることがわかりました。完全なESG評価ではなく、環境スコアを使用するだけでも、グリーン・パフォーマンスは大幅に悪化すると結論づけています。

さらに悪いことに、社会的もしくはガバナンスの格付けと環境スコアとを混合すると、一般に、時価総額で重みづけされた同等の指標よりも環境に配慮していないポートフォリオが生まれ、社会的もしくはガバナンスのスコアによって、炭素削減目標が完全に覆えされることになります。彼らの説明によると、ESGのスコアと企業の炭素強度との相関は、ゼロに近いものです。

不可避な結論は、ESGを重視することが必ずしも投資家の低炭素ポートフォリオの構築やその他の特定の目標の達成に役立つとは限らない、ということです。ESG評価は総合的な産物であり、その性質上、一連の重要な要素を勘案することになるので、1つだけの要素との相関を引き出すことは、つねに困難となります。

結局、海運がどのような影響を受けるのかは、事業体が格付けや指標スコアをどのように展開していくかによって決まるでしょう。民間企業で従業員に業績を示す手段としては、相関性の欠如はそれほど重要ではないかもしれません。しかし、一般の株主、投資家、顧客との社外的なツールとなる、行動に表れた善意の経験的な尺度としてのESGの活用は、まだ先のことかもしれません。

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